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オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』レビュー

2019年8月15日

すばらしい新世界3

今日紹介する本はこちら、『すばらしい新世界』(オルダス・ハクスリー)

 

文明とは消毒である/civilization is sterilization

ディストピアSF物として、名作と名高い本作。1932年に発表された。
その新訳版(訳:大森望)が2017年に早川書房より出版された。
この作品の影響下とされるものは様々あるが、地続きの影響を感じるものは日本では『新世界より』(貴志祐介)やアニメのPSYCHO-PASS?サイコパス等がある。

2020年にはスティーヴン・スピルバーグが率いる製作会社(Amblin Television)がプロデュースを手掛け、アメリカでドラマが放送される予定との事。

"すべてを破壊した〝九年戦争〟の終結後に、暴力を排除し、共生・個性・安定をスローガンとする清潔で文明的な世界が形成された。人間は受精卵の段階から選別され、5つの階級に分けられて徹底的に管理・区別されていた。この美しい世界で孤独をかこっていた青年バーナードは、休暇で出かけた保護区で野人ジョンに出会う。"

-amazon内容紹介より

本の紹介に行く前に、まずは著者であるオルダス・ハクスリーの説明とディストピアという世界観の簡単な説明を。

"オルダス・レナード・ハクスリー(Aldous Leonard Huxley 1894年7月26日 - 1963年11月22日)は、イギリスの著作家。後にアメリカ合衆国に移住した。ヨーロッパにおいて著名な科学者を多数輩出したハクスリー家の一員で、祖父のトマス・ヘンリー・ハクスリーはダーウィンの進化論を支持した有名な生物学者、父のレナード・ハクスリー(英語版)は文芸雑誌を担当する文人であった。長兄のジュリアン・ハクスリーもまた進化論で有名な生物学者で評論家、1946年から1948年までユネスコ事務局長を務めている。異母弟のアンドリュー・フィールディング・ハクスリーはノーベル生理学・医学賞受賞者。息子のマシュー・ハクスリー(英語版)も疫学者・人類学者として知られている。オルダス・ハクスリーは小説、エッセイ、詩、旅行記など多数発表したが、小説によってその名を広く知られている。"

-Wikipediaより

"ディストピアまたはデストピア(英語: dystopia)は、ユートピア(理想郷)の正反対の社会である。一般的には、SFなどで空想的な未来として描かれる、否定的で反ユートピアの要素を持つ社会という着想で、その内容は政治的・社会的な様々な課題を背景としている場合が多い。"

-Wikipediaより

今作の話の主軸となる人物は3人と1人。
話は場面が転換されていく度に、主となる人物が切り替わっていく。
やがて終幕に向けて、主となる人物それぞれの人生がドラマティックに動き出して行く。

過去(だった)未来(つもり)はなく、只、現在だけが積み重なっていく日常
そして、この現在という瞬間もすぐさま過去となり、瞬く間に消えていく。

かこ果実みらいも消え失せ、"現在"という花だけが艶やかに咲き誇っていた。”

そこにあるのは瞬間と快楽に支配された生産と消費だけを目的とした社会。
全ての人類は社会というシステムを構築、維持して行く為のみに存在し、期待も不安も絶望も変化も無い。
あるのは一錠のソーマ(合成麻薬)とフィーリー(感覚映画)。

 

"呪うより服もう、早めのソーマ1グラムで人生楽々"

決められた労働と日常の終わりに感謝し、老いる事も無く、同じ明日を繰り返して、死んでいく。
家族と言う概念は既に無く、父親と母親というものも無い。
子供は全て試験管から計画的に作り出され、その時点から選別され、等級に振り分けられ、徹底的に条件付けされる。
上の等級のものは下の等級に生まれてこなくて、本当に良かったと安堵し、
下の等級のものは上の等級の様な責任と仕事を与えられなくてと本当に良かったと安堵する。
各々が各々に感謝し、みんなはみんなのもので、みんなはみんなの為に存在するという個人という概念も存在しない社会。

 

”個人など、いとも簡単に新しくつくりだせる-好きなだけ何人でも。他方、社会常識からの逸脱は、一個人の生命を脅かすにとどまらず、社会そのものを危険にさらす。”

そういった世界、社会、日常の中でのそれぞれの幸福と人生のあり方への問いとその答え。
・勝ち組か負け組か。
(社会と集団の中での自らの立ち位置。コンプレックス(劣等感)から引き起こされる孤独と疎外感)
・真理か幸福か。
(エリートの中のエリート故に、周囲から理解されない事への孤独と疎外感)
・野蛮か文明か。
(ここは愚者の想い描く楽園なのか、生きるとは?幸福とは何か?)

 

以前のレビューにも書いたが、こういったディストピア物を現在の時点(2019年)で読むと、描かれた情景や描写がある種のリアリティを帯びており、
この日常とこの作品を読んだ私自身も既に話の中に取り込まれてしまっている様な錯覚に陥るのが面白い。(いや、恐ろしいと捉えるべきか)
又、独特のユーモアと世界設定でシュールなコントとしても成立している。
それ故、悲劇的ではあるが、どこか喜劇的に見えてくる所も本作の不思議な読み心地に繋がっているのではないだろうか。

本作の見どころの一つを挙げるとするならば、一人の主人公とシステム(体制)側の主要人物との問答シーンだろう。
ここの場面は静かに穏やかに知的に展開されるのだが、その実、中々に熱を帯びた迫力のあるシーンの様に思えた。

 

”神は、機械や医学や万人の幸福とは両立しない。どちらかを選ぶ必要がある。われわれの文明は、機械と医学と幸福を選んだのだ。”

さて、あなたはどの結末を選びますか?

 

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