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スティーブン・キング『ドクタースリープ』レビュー/後編

2019年7月6日

 

前編よりの続き。

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今作の『ドクタースリープ』は前作『シャイニング』の続編になるが、作者のキング自身もシャイニングの登場人物のその後は気になっていたようで、折に触れ、設定を考えていた様子。

スクリプナー社から最初に刊行した作品は、1998年の『骨の袋』だった。
新しいパートナーを喜ばせたい一心で、わたしはこの長篇のプロモーションツアーに出発した。

そのときのあるサイン会場で、ひとりの読者にこうたずねられた。
「そうだ、『シャイニング』に出てきた少年があのあとどうなったかはご存じですか?」

これはずいぶん昔のあの作品について、わたし自身もしばしば考えていた疑問のひとつだった---

ドクタースリープあとがき、作者のノートより(文春文庫)

 

今作は大まかに説明すると話の軸が三本で構成されている。
一本は前作の主人公【かがやき】の持ち主であるダニー少年。今作ではダンという名前で成長している。

次に今作のもう一人の主人公、少女アブラ。
そして、最後に真結族(トゥルー・ノット)という謎の集団。
それぞれが次第に絡み合って、物語の結末に向かっていくというもの。

前作『シャイニング』が密室を舞台としたジワリジワリと積み上がって行く恐怖なのに対し、今作は冒険物語的な速度と広がりを持ったものになっている。

なので、前作のような恐怖要素を期待すると少し肩透かしを喰らうかもしれない。
おい、本当に大丈夫か?と思ったアナタ。ご安心を。
そこはさすがキング。今作ならではの演出とスリリングな展開で、しっかりとドキドキ、ハラハラを楽しめるものになっている。(このあたり、今回映画化されるあたって、どう映像で表現されるのかスゴク楽しみである)

ドクタースリープ444

しかし、読み終えた今、思う事はエンターテイメントとしてのお話は勿論楽しめたのだけれども、それよりも感動や人の持つ暖かさといったものを強く感じた。

【かがやき】という異能の力や超常現象がメインなのでは無く、人の生死、繋がっていく事、終わって行くもの、また新たに始まって行くものといった人の持つ性や業、そして優しさといったものを扱ったヒューマンドラマのように思えた。ダン個人の孤独と再生の物語(共依存であった両親とそれゆえの自身のアダルトチルドレンの問題)にも凄く共感を覚えた。

タイトルであるドクタースリープとは?
そして、その名が意味する事とは?
最後まで読み終えた時、「ふむ、なるほど。」となると思う。
特に前作『シャイニング』を読んでいると、そのなるほどが感動へと変化すると思うので、まだどちらも未読ならば、併せて読むのがオススメ。
いやはや、それにしても御年72歳、スティーブン・キング、老いて益々盛んである。

 

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